頸椎前方徐圧固定手術
首の前の部分を切開し、首の部分の脊椎(頚椎:けいつい)に前方から侵入する方法です。
手術の目的
脊髄や神経を圧迫している軟骨である椎間板やガタガタにより生じた骨の棘(骨棘:こつきょく)をある程度取り除き、ぐらぐらしている椎間板のスペースが動かないように固定しようとする手術です。椎間板のスペースにケージ(右下)と言うものを入れて、2,3ヵ月後に徐々にケージの周りに自分の骨が出来てきて、椎間板が自分の骨で満たされるようになり、固定が完了するものです。
これにより、脊髄に対する圧迫を解除して、これ以上脊髄の障害が起きないように進行予防をする、あるいは、神経の圧迫を解除して、なおかつグラグラをなくして、少しでも今の症状が良くなることを目的とする手術です。
手術の成功の確率
自分たちが大きなトラブルもなく予定通りに手術が遂行できる確率は95%以上あると思います。そうすれば、上記の最低限度の目的である、「症状の進行予防」は成し遂げられるのではと思っております。
手術法
手術は全身麻酔で行います。
首のしわに沿った皮膚を通常、5cmほど切開します。右の図のようなルートで頚椎の前の部分に到達して、病んでいる軟骨である椎間板やガタガタにより生じた骨の棘(骨棘:こつきょく)を顕微鏡で拡大して取り除きます。
これにより、頚椎の中の脊髄やそこから出る神経への圧迫がある程度解除されたところで、胸の前の骨(胸骨:きょうこつ)から骨の一部を取り(胸の前の部分に3cmほど切開します)、その骨をチタンで出来たケージというケースの中に埋め込みます。その自分の骨で満たされたケージを取り除いた椎間板のスペースに挿入します(右図)。
あとは、首の傷を縫合して手術を終えます。
手術の合併症
手術に際して、患者さんにとっていろいろな不利益なことは、人間が人間を扱う以上必然的に起こりえるものであります。これらを手術合併症と称しており、以下に挙げるようなものが含まれますが、これらの発生確率は当診療科では4%前後で推移しています。
怖いことが以下に列挙されていますが、治療側の「説明義務」とそれに基づく患者さん側の「自己決定権」という観点から必要なものとご理解くださいませ。
1.命に関わる合併症
(1) | 全身麻酔にかかわるような、心臓、肺、脳などの重要臓器に障害が現れることがあります。偶発的な病気の発生と技術上の問題とがあると思いますが、特に高齢者では多いかと思います。詳しくは麻酔科医師にお尋ねください。 |
(2) | 手術中や手術直後、じっと足を動かさないでいやすいです。すると、エコノミークラス症候群と言って、足の血管に血の塊(血栓:けっせん)が出来てしまい、それが、後になって肺の方まで流れていって、肺の血管を詰まらせて、呼吸にトラブルが生じ、命も脅かすことがあります(肺塞栓:はいそくせん)。通常の予防手段はとっておりますが、完全に防ぐことは出来ません。 |
(3) | この手術のルートは、喉の前にある肺に空気を送る「気管」、胃に食物を送る「食道」、その脇には、脳へ血液を送る「頚動脈」、また、頚椎の横にはやはり脳へ血液を送る「椎骨動脈」があります。これらを万が一傷つけると、命にかかわることがあり得ます。 |
(4) | どんな手術でも、手術後に出血が新しく起きてしまい、それが徐々に手術したところに溜まることがあります。この前方手術では、これにより気管が圧迫されて息ができなくなるトラブルが起こりえます。今まで1度だけ起きました。幸いに命には別状はありませんでした。 |
2.神経機能的な合併症
(1) | 椎間板や骨棘を取り除いているときに、中の脊髄や神経を傷つけることがあります。これにより、術後に手の痺れが強くなったり、手や腕が上がらなくなったり、などと言う感覚障害や運動障害を起してしまいます。神経を切ってしまうことはごくごく稀ですので、徐々にとは思いますが、時間とともに改善してくれることが多いです。 |
(2) | 脊髄や神経まで切ってしまうことはないのでしょうが、それらを包んでいる膜(硬膜:こうまく)を傷つけてしまうことがあります。すると、膜の中では脳からの水(髄液:ずいえき)が脊髄の方まで循環していますので、お水が漏れてしまうことがあります(髄液漏:ずいえきろう)。その水漏れを放置しておくと、傷の表面まで溢れてきて、逆にそこからばい菌が入り込む(感染)ことがあり危険な状態となります。それを防がなくてはなりませんので、髄液漏を発見した場合、針で縫い合わせても、針穴から水が漏れてしまうので、フィブリングルーと言う血液の製剤から出来た「糊」のようなものをそこに塗ってくる事があります。 |
3.そのほかの合併症
(1) | 本手術でおきえることとしては、やはりケージと言う異物を使う手術ですので、感染が起きる確率が2%程度はあります。もしも、感染が診断されたときには、異物であるこのケージを取り除く手術を行うことになると思います。 |
(2) | 本手術でおきえることとしては、やはりケージと言う異物を使う手術ですので、感染が起きる確率が2%程度はあります。もしも、感染が診断されたときには、異物であるこのケージを取り除く手術を行うことになると思います。 |
(3) | 手術後に膀胱炎になったり、傷の治りが悪かったり、チューブのあとが身体表面の一部に残ったりなどの、種々のトラブルが起きることがあります。 |
(4) | 手術前後で使用する種々のお薬などでのアレルギーも起こりえます。 |
(3) | 神経と言っても脊椎からは離れているのですが、ルートの図にもありますが、気管と食道の間にある声帯へ行く神経を押してしまい、術後に「声がかれる」と言う方がいらっしゃいます。しかし、徐々にですが改善することが多いです。 |
他の手術法の選択
私たちは固定材料にチタンで出来たケージを使用しています。このケージにはいろいろな形状のものが開発されていますが、私たちが使用するものも、現在では整形外科脳神経外科で広く使われているものです。このチタンのケージの代わりにセラミックで出来たもの(スペーサー)を挿入する先生もいらっしゃいます。
そのほかでは、自分の骨盤の骨を採取して用いるもの、さらに、その上にチタン製のプレートとスクリューで固定するものがあります。
自分の骨では、癒合率が悪いかもしれない、さりとて、プレートを使うと、プレートやそれを固定するスクリューでのトラブルが怖いこと、セラミックは骨癒合の時期が遅いように思えることより、私たちはケージを使用しています。